本日は皆様船岡大祭にご参列給わりまことに有難うございます。船岡祭は織田信長公が始めて天下統一の為上洛された永禄11年10月19日にちなむお祭で、毎年この日に西陣各学区の皆様により執り行われて参りました。本日はご祭神直系に当られます織田信孝様を始め各地からもゆかりの方々のご参列を得て執り行うことが出来、まことに有難うございます。
さて先日テレビを見ておりますとカナダの西海岸、アラスカの南の方の島々が紹介されておりました。あのあたりの海は海藻の宝庫であり、魚や貝等大型のものが驚く程たくさん生育しております。陸地は海岸の際までびっしり樹木が生い茂っており、川には鮭が大挙して登っており、その鮭をめがけて山や森の中から何十頭もの熊が出てきて鮭をとっておりました。本当に海も山も森も川も生命で満ちあふれております。きっと日本列島も昔はこの様に美しい豊な自然にすべておおわれていたのでありましょう。今でも日本の国土の70%は森林だそうであります。
我々の先祖はこの美しい国土を豊葦原の瑞穂の国とか葦原の中つ国といって称え、日本の国家の成立するはるか太古の時代から多くの恵みを与えてくれる山や海や森や川や動物等自然界のものすべてに霊魂が宿っていると考え、それぞれに畏敬と感謝の念をもって接してきました。この様な日本人の自然観・神観念に基いて自然に発生したものが神社神道でありまして、八百万といわれる程多くの神々を信仰の対象としております。人間はこの豊かな自然の中に生れ育ち祖先に見守られ、又、多くの他の人々と共に生活しています。そして正直と清浄を守る事を至高の道として、清らかな人間に日々生まれかわっていく事を信仰の基盤としています。
そして日本人の神観念のすばらしいところは、天地万有を固定的にとらえるのでなく、一切万有を発展的にとらえ、一切万有の中にそれぞれ“いのち”というか“たましい”というか“神”というか“エネルギー”というかが宿っていて、このエネルギーの働きによって宇宙万有は進化していく、即ち神道の言葉でいう“むすび”すると観じたところにあります。古代の日本民族の信じた神は、この様に単なる固定的な観念神でなく、又、宇宙の外にいてこの宇宙を造ったとする創造神でなく、又、卑陋な呪物神でなく、実に万有の中に宿る“いのち”“エネルギー”が活きて、進化し、発展する神であります。従ってこの宇宙の中には完全無欠なものは一つもないと考えたのであります。完全なものは発展も生長も向上もなく、ただ永遠のストップがあるだけであり、もはやその存在価値はありません。
こういった日本人のすぐれた神観念、世界観を育んだのは日本の豊かな自然であり、森であり、山であります。神社には鎮守の森がつきものでありますが、お宮にしろお寺にしろ、人工的な大建築もさることながら、それが自然の中にとけ込んだたたずまいが好まれる様であります。森は人の気持ちを落ち着かせ大変いいものですが、たえず人の手が加わって始めて美しく保たれるものです。
今年に入り、松喰虫で建勲神社の松も十本程枯れましたが、平林良和さんが松の若木を数多く植樹ご奉納賜りました。本当に有難うございました。
又、京都新聞、朝日新聞でも先日大きく報道されました建勲神社境内のナラ枯れ防止の為、京都府立大学大学院の小林正秀先生とその研究室の学生の皆様が数ヶ月にわたり、ペットボトルを使ったわな百基余りでナラ枯れのもととなるカシノナガキクイムシを大量に捕獲しナラ枯れ防除に全くのご奉仕で当って頂いており本当に有難い事であります。
本日はカナダの森で熊が鮭をとっているお話から始めて、古代日本民族の信じた神について、さらには神社境内の森を皆で守って頂いているお話をさせて頂きました。
さてこの度建勲神社の北参道の入口に史跡船岡山見取図という絵地図が地元の林正則さん、門谷嘉文さんのご尽力で新設される事となり、ご参拝の方、観光の方々に喜んで頂ければと存じております。
本日はご多用の中ご参列給わりまことに有難うございました。どうか皆様には建勲神社の大神様のあらたかなご加護の下、益々お元気にご発展なさいます様お祈り申し上げます。