船岡大祭 宮司あいさつ
「御成敗式目と神道」

本日は皆様船岡大祭にご参列賜りまことに有難うございます。今年は素晴らしいお天気に恵まれ、またご祭神直系に当られます織田信孝様を始め各地からゆかりの方々のご参列も得まして、こうして盛大に船岡大祭を執り行うことができましたこと、心より感謝申し上げます。

昨年の船岡大祭にて、約800年前、鎌倉時代に時の執権北条泰時により制定された御成敗式目の第一条に「神社を修理し、祭祀を大切にすること」と書かれていることについて紹介させていただきました。御成敗式目は武家社会の慣習や道徳を成文化した51箇条からなる法律で、江戸時代に至るまで武家社会の基本法として重視されたものですが、その第一条に神社についての規定があるということから、古くから日本人にとって神社や祭りが大変大切なものであったということがわかります。

四季折々の豊かな自然に恵まれた日本に暮らす人々の日常の生活の中から自然発生的に生まれてきた八百万の神々に対する信仰、畏敬の念、そして感謝の念に基づく生き方を「かむながらの道」、神道といいます。神道は民族宗教に分類されますが、名称からも分かるとおり神道は「神の道」であり「神の教え」とは書きません。神道にはキリスト教の聖書やイスラム教のコーランに当たるような教典もなく、明確な教義があるわけではないのですが、神道の考え方については、「古事記」や「日本書紀」といった古典、神社や祭祀の在り方、日本人の生活習慣や文化などから窺い知ることができ、「御成敗式目」もその一つになります。
御成敗式目の「神社を修理し、お祭りを大切にしなさい」という第一条の規定には続きといいますか、補足説明が書かれています。その中に「神は人の敬によりてその威を増し、人は神の徳によりて運を添う」との言葉があります。「人々の崇敬によって神様はそのご神威をいっそう高め、神様のご加護によって人々はより幸せに生きることができる」、だからこそ神様を敬い、神社をきちんと修理し、お祭りを大切にしなさいというつながりになるのですが、この部分からは、古来日本人は、神様と人との関係を一方的なものと捉えるのではなく、人々の敬う心によって神様も力を増す、相互に連鎖発展していく関係と捉えてきたことがわかります。

さて今年の船岡大祭では、御弓師21代目柴田勘十郎氏により「読唱鳴弦四方祓」奉射の儀が奉納されました。柴田勘十郎氏は、現在、日本で唯一京弓を製造している柴田勘十郎弓店の21代目のご当主でいらっしゃいますが、初代の柴田勘十郎氏が弓作りを始めたのは天文3年(1534年)とのことです。1534年はどんな年であったかご存知でしょうか。1543年に種子島に鉄砲が伝来したのですが、その9年前の年になります。この天文3年という年は織田信長公がお生まれになった年に当たります。
信長公は本能寺の変の際、最初は弓を取り明智の軍勢と戦ったと信長公の側近の太田牛一が著した「信長公記」に記述されております。この時信長公が用いた弓は柴田の弓であったとも言われており、500年近い時を超えて、信長公の偉大な功勲を後世に伝えるこの船岡大祭にて、信長公も用いたとされる柴田の弓を用い、信長公の時代から京弓の伝統を代々受け継ぐ柴田勘十郎氏により厳粛な神事が奉納されたことは大変意義深いことと存じます。御弓師21代目柴田勘十郎さまには改めて厚く御礼申し上げます。

さて本日より10月29日まで、平成30年にご奉納いただいた薬研藤四郎再現刀を公開いたします。薬研藤四郎は鎌倉時代の刀工粟田口吉光作の信長公愛用の短刀で本能寺の変で焼失したともいわれ現存していませんが、光徳刀絵図など様々な資料を参考に藤安将平刀匠が平成30年に再現されたものです。
またこの度、いつも火縄銃演武を船岡大祭にてご奉納くださる建勲神社信長鉄砲隊の隊長でもいらっしゃいます林利一氏が、愛知県の陶人形作家追平陶吉師作の織田信長公像をご奉納くださいました。林利一様、どうも有難うございました。
薬研藤四郎再現刀と信長公の陶人形は貴賓館にて展示しておりますので、まだご覧でない方は是非お帰りの際にお立ち寄りいただければと存じます。

最後になりましたが、昨年9月に着工しましたお蔵の漆喰の全面塗替え等の工事は今年4月に無事竣工しました。今回の工事は昭和4年(1929年)以来の94年振りの大きな工事となりましたが、見事な匠の技により白壁の美しい姿を取り戻すことができました。お力添えいただいた皆さまには心より御礼申し上げます。

本日は皆様、ご多忙の中船岡大祭にご参列賜りまことに有り難うございました。「神は人の敬によりてその威を増し、人は神の徳によりて運を添う」と申しますが、皆様の崇敬心によって一層ご神威を増した建勲神社の大神様のあらたかなご加護の下、益々お元気に、お幸せにお暮らしなさいますようお祈り申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。

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